愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「それで、訊きたいこととは何ですか?」
「ああ……雅の過去の話を聞きたい。雅は時々激しく怯えを見せるときがあるんだ。明らかに普通の怯え方ではない。彼女には何かトラウマがあるんだろうか?」

 内容が内容だけに誠一郎は盛大に顔を顰めている。

「あなたが怯えさせるようなことをしているのではないですか? あなたの姉に対する態度を思えば、その答えが自然だと思いますが」

 清隆がずっと雅に対して冷めた態度だったことを指摘しているのだろう。至極真っ当な指摘である。

「そうだな……確かに、私の雅に対する態度は褒められたものではなかった。ただ巻き込まれただけの彼女に対して、本当にひどい仕打ちをしていたと思う。本当にすまない。今はそのことを心から反省しているんだ」
「そうですか。だったら、あなたが態度を改めればいい話なのではないですか?」
「それだけではだめなんだ。彼女が怯える理由を知っておきたい。私の行動がきっかけになっていることはわかっている。だが、怯えさせるようなことをしたわけではない。雅は、私が覆いかぶさるような体勢になっただけで怯えだすんだ。さすがにおかしいだろう?」

 誠一郎は不快感をあらわにした表情をしている。言い方がまずくて、誤解を与えてしまったのかもしれない。清隆は慌てて言い繕った。

「勘違いしないでくれ。彼女を痛めつけるようなことは決してしていない。夫婦なんだから、そうなることがあるのはわかるだろう?」

 そうやって補足すれば、誠一郎は不満げな表情をしながらも納得してくれたようだった。
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