愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「少しだけ安心しました。あなたは以前とは変わりましたね」

 雅に冷たくしていた頃とは違うと言っているのだろう。清隆自身その変化はよくわかっている。何しろ雅のおかげで変われたのだから。

「……雅が変えてくれたんだ」
「そうですか……私はあなたとの結婚反対だったんです。提携話を持ち込んだのはあなたと結婚させるためなんかじゃなかった。姉を不利な結婚から救おうと思ってのことだった。笹崎紡績の業績が上がれば、姉も自由になれるだろうと思って」

 玄一郎から聞かされた話が蘇ってくる。

「私との前にあった縁談のことだな? 知り合いから聞かされたよ」

 誠一郎はその通りだと軽く頷いている。

「その話がなくなったことは幸いでしたが、結局、姉にとって不利な結婚はなくならなかった。あなたの姉に対する態度に、私はずっと腸が煮えくり返る思いでしたよ。姉が幸せでないのなら、どんなことをしてでも、あなたのもとから姉を救い出そうと思っていました」
「そうだろうな。私が君の立場だったら、きっと同じことをしたと思う」

 清隆が同意の言葉を返せば、誠一郎は少し間を置いてから次の言葉を放った。

「ですが、今日考えが変わりました。今のあなたになら任せられるかもしれない。しばらくは様子を見ます。どうか姉のことをよろしくお願いします」

 誠一郎はそう述べて軽く頭を下げてくる。雅の家族に認めてもらえたようで、清隆は胸がいっぱいになった。清隆も同じように誠一郎へ頭を下げて、感謝の気持ちを伝える。

「ありがとう。本当にありがとう。絶対に雅を傷つけないと約束する。必ず幸せにすると誓うよ」
「はい。お願いしますね。その約束を破られたときは、私が姉を連れていきますので」
「肝に銘じておくよ」

 互いに軽く笑みを見せて、二人の約束が成立した。

 その後は二人で弁当を食べながら、雅の話をした。誠一郎の中には、雅との想い出がたくさんあって、清隆はそれがとても羨ましかった。
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