愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 十分か十五分か、そのくらいの時間が経過すると、清隆が徐にその口を開いた。

「普段は海なんて見ても何とも思わないが、雅と一緒だとまったく違うな。不思議ときれいに見える」

 清隆のその言葉に、雅はまったくその通りだと頷く。

「私もとてもきれいだと思います。それに本当に雄大ですね、海は」

 近くで見る海は、それが続く先が見えない。この海がずっとずっと向こうまで続いているのだと思うと、その存在の大きさを強く感じる。

「そうだな。海を見ていれば、人間なんて本当に小さく感じる」
「はい。本当に。些細な存在でしかないと思います」
「ああ。だが、私にとっての君は違う。雅は私にとってかけがえのないとても大きな存在だ」

 驚いて清隆のほうへ顔を向ければ、真っ直ぐに向けられた清隆の視線に迎えられる。今言ったことが真実なのだと語るようにその視線は外れない。

 自分なんて取るに足らないそんな存在にしかなれないだろうと思うのに、清隆のその言葉は否定したくなかった。でも、素直に受け入れるのも難しくて、雅は清隆へ同じ想いを返す。

「……私も。私も清隆さんのことをとても大きな存在だと感じています」
「そうか」

 清隆の瞳がとても柔らかくなって、それにつられて雅の表情も勝手に緩む。なんだか心が通い合ったような、とても心地のいい感覚にとらわれた。

 それからもうしばらくの間、二人は海を眺め、清隆の
「さすがに日があるところにいれば暑いな。そろそろ車に戻ろうか」
という言葉をきっかけにして、二人は海辺をあとにした。
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