愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「少しだけこの場所を貸し切っているんだ。ここでどうしても君に言いたいことがあったから」

 向かい合うようにして立つ清隆はいつになく真剣な表情をしている。釣られて雅の表情も引き締まる。互いに見つめ合ったまま数秒の沈黙が流れ、次に清隆が口にしたのは意外な言葉であった。

「雅。まずは君に謝りたい。ずっと君を蔑ろにしていたこと、本当にすまなかった。申し訳ない」

 清隆が雅へ向かって深く頭を下げる。まさか清隆が雅に対して謝罪をするだなんて、少しも予想していなくて、雅は状況が飲み込めない。そもそも清隆に謝られるようなことは何もないのだ。

 雅は慌てて頭を上げてほしいと清隆へ懇願する。

「え? ええ? あの、頭をお上げになってください。謝られるようなことは何もされていません。私にはもったいないくらい、清隆さんはたくさん優しくしてくださっています」

 雅の言葉に清隆は一度頭を上げたものの、随分と厳しい表情を浮かべている。

「いいや、初めは違った。顔を合わせてすぐに、私は君に『干渉するな』なんて言っただろ? いくら政略結婚だからといって、そんなことを君に言ってはいけなかった。本当に申し訳ない」

 またもや清隆が深く頭を下げるものだから、雅も慌てるしかない。
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