一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「ただいまあ」

 誰もいない部屋に向けてそう挨拶をし、ごみを捨てて傘を取る。

「メイクは……こんなもんかな」

 手直しする必要は無さそうだ。私は自宅から出てそのまま勤務先へと歩いていく。私の自宅はこの街のサウスエリアにある。なのでここから総合病院まではまあまあ歩く必要があるのだ。

「おはようございます」

 同僚や先輩後輩に挨拶をして、カフェでの勤務が始まる。そう、いつも通りの日常が始まっていくのだ。
 だが、いつも通りでは無い部分が1つだけ、あった。

(まだ、下腹部が熱い……)

 昨日。成哉と交わった熱がまだ残っていた。そのせいで思うように仕事に集中できない。
 接客する度に、昨夜のあれこれが勝手に脳裏に流れていくのだ。

(集中できない)

 お昼頃になると、客足はぐっと増える。しっかりしないと、自分……!
 すると、医者が来店してきた。白衣を入り口手前の専用ラックにつり、スクラブ姿となる。

「ん?」
「あ、堀田じゃん! おつかれ」
 
 なんと成哉だった。にこにこ笑みを見せながらとこちらへと手を振ってくる。
 その様子を更に女の同僚に見られてしまい、彼女から質問攻めにあってしまう。

「堀田さん、藤堂先生と知り合いなの? もしかしてつきあ……」
「てない、ない! 小中一緒だったの。そんだけ!」
「ほ、ほんと?」
「ほんと。ほんとですって!」
(疲れる……)
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