一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 彼女達は何度も叫ぶ。3回目くらいで流石に廊下の向こうまで届いたのか、看護師があわてて入室してきた。

「なにかありました?!」
「あっ……! すみません!」
「驚いだだけで……」
「もう、びっくりさせないでよ!」

 看護師は驚きの表情から怒りの表情に変わる。理学療法士の2人は平謝りし、成哉も申し訳ないと頭を下げた。

「藤堂先生も気をつけてくださいよ!」
「いえいえ、すみません」
「はあ……紛らわしい!」

 看護師は苛立ったまま特別室を後にしたのだった。田中さんが盛り上がりすぎましたね、と申し訳なさそうに呟く。

(ワンナイトで妊娠からの結婚は流石に驚くよなあ)

 その後は田中さん、松崎さんの順で最後に成哉へ順番が回った。

「じゃあ、俺の番かな」

 成哉がゆっくりと、覚悟を決めたかのように口を開いた。

「愛海を初めて意識したのは……中学の時もだったかも。その時は恋愛って意識は無くて、勉強頑張ってる真面目な子だったなって印象だった」
「え、そうだったの?」
「うん」

 成哉からそう謂われて、私は嬉しくなった。確かにあの時は勉強頑張ってたからだ。

「それで、高校の時。同じ部活で仲良くなった先輩がいたんだ。これも恋愛って意識は無かった……」

 そこで、成哉の語りが一瞬だけ止まる。

「何かあったの?」
「……その先輩、病気だったんだ。それで手術受けたんだけど結局病気治らなくて死んでしまった。それで俺は改めて医者になりたいって強く思うようになった」

 成哉の声は暗い。だが、そこには確かな信念が感じられた。立派な外科医になるという信念がそこにはあった。

「なんか、恋バナじゃなくなってきたな……それで、愛海に再会した時かな、意識したのは」
「そうだったんだ……教えてくれてありがとう」
「……長い間言えなくてごめん」

 彼に謝る必要はない。私はそう彼に語ると、ありがとうと小さく返してくれた。
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