一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 成哉がひがみやねたみとは無縁だったのは、そのおかげというのもあるだろう。とにかく彼は自分が出来る事ならすぐに手助けに行っていたし、自分で対応するのは無理と分かれば代わりに出来そうな子に声をかけてあげていた。それには父親からこのような言葉があったからだろう。

「成哉、医者は1人では何もできない。看護師や技師、薬剤師に事務と言った人々がいてこそなんだ。1人だけでは何もできないんだよ」
「そうなんだ……」
「だからみんなの事も考えて行動するのが一番だ。誰かの嫌がる事はしてはいけない。そして誰かが困っていたら必ず助けるんだ。医者になるにはそういう思いやりも必要だからな」
「……うん!」
 
 だから彼はずっと人気者でいられたのかもしれない。
 小学校高学年になると彼の周りには更に人が増えていた。この頃から彼は放課後に女子から告白されたり、朝下駄箱にラブレターを入れられていたりする場面に出くわすようになっていった。もっと言うと朝の登校時に下駄箱にラブレターが入れられていたのが全ての始まりだった。
 成哉はピンク色に花柄の封筒から手紙を取り出すと、そこには好きなので付き合ってほしいと言う文言だけが書かれてあった。差出人は不明。返事をしようにも誰が書いたのか分からないので成哉は迷った挙句、手紙を持ち帰りその日の夜に父親と母親へ相談したのだった。
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