一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 成哉は時間の許す限りベリが丘の総合病院へと通い続けた。倉敷愛海とは会えない日々が続いていたが、それでもあきらめずに通い続けたのである。
 そして8月初旬。ナースステーションにて成哉は彼女がしたためた手紙を看護師から受け取った。

「これ、開けてもいいですか?」
「はい、どうぞ」

 水色の無地の封筒から封筒と同じ色をした手紙を取り出し、開く。

「成哉くんへ。私はもう長くないので手紙を用意しました。今の私は手紙を書く体力もないので、看護師さんに代筆してもらっています。ごめんね。成哉くんは医者を目指していると聞きました。ぜひ、私の病気を治すような医者になってください」

 と記されていた。成哉はじっと目に脳に焼き付けるようにして手紙を見つめる。

(絶対、医者になる)
「この手紙、貰っていいですか?」
「はい。貰ってください」

 この数日後。倉敷愛海は息を引き取った。

「そうですか……」

 彼女の死はナースステーションで知った成哉。成哉の胸の中にはぽっかりと穴が空いて、その周囲は燃えている。それは医者を目指すという強い意志が宿った炎だった。

(絶対に医者にならないと。倉敷先輩の為にも……!)
「成哉くん」

 看護師が何かを伝えようと、帰ろうとする成哉をナースステーションから呼び止めた。
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