一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 おばあさんは白髪のショートヘアにごつごつした指を微塵も隠さず、堂々と受け答えしていた。

(すごいなあ)

 スマホを見ると店長や同僚から心配のメッセージが入っていた。返信をしなければ。いや、店長は電話の方がいいか。

(とりあえず夜に店長に電話しよう)

 この時、私の中にはある考えが浮かんでいた。それは勤務先を変えてもらう事。ベリが丘から離れて別の職場で働くという事だ。出来れば以前いた大学病院がありがたいが、そこはかけあってみないと分からない。

(今は藤堂くんの事考えたくないし見たくないし。それにベリが丘だと私の話が多分及んでいる。いっそ勤務先も病院も全部変えよう)

 私はベッドで横になり、少し休憩してから買い出しに向かった。やはりベリが丘で買う食材はちょっとお高めだ。

(子育てするとなると、今の給料でこの値段設定はちょっときついかも)

 買い出しが済んだ後、自宅に戻り食材を冷蔵庫にそれぞれしまって、またベッドに座る。

「はあーー……」

 空虚なため息が漏れて部屋中に響き渡る。

「……引っ越しの準備もしなくちゃ」

 私はベリが丘にはいらない人間。こんな街にいても意味がない。彼とそのご両親、そして病院に迷惑をこれ以上かけないためにもさっさとここから出ていかなければ。
< 37 / 135 >

この作品をシェア

pagetop