一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「……堀田」

 途端に、成哉の声が低く変わった。

「もしかして……」
「うん」

 飲み直そうというのは、ただの口実という事を成哉はしっかり理解していた。

「分かった。行こうか」

 成哉がバーでのお支払いを済ませてから、2人で揃って荷物を持って退店する。
 向かった先は、ベリが丘のとあるホテル。高級感のあるシックなホテルに引き寄せられるように、入店していく。
 その間も、横目で見た成哉の顔つきは真剣そのものだった。

(藤堂くん……)

 受付カウンターで、スーツ姿の若い受付嬢に誘導されながら最新式のタッチパネルで受付を済ませた。

「……」


 私は終始無言というか、何も言えなかった。成哉の雰囲気に完全に飲まれていたからだ。
 誰もいない静かな廊下を歩き、部屋に入る。そして成哉がドアの鍵をかけた。  
 
「本当に良い?」
「うん」

 私が頷くのを見てから、成哉は私の肩を軽く抱いて唇を合わせてきた。
 唇から熱い舌が割って入り、私の舌と口内をぐるぐるとなぞるように、舐め回していく。

(苦しい……)

 溺れそうだ。ようやく成哉が口を離すと、唾液が糸となって伝う。
 たったこれだけなのに、私の息は途切れ途切れになっていた。例えるなら20メートルシャトルランの時の息切れとはまた違った感覚である。

「もっかいしよ」

 もう一度、成哉が私の唇を自身の唇で塞ぐ。

(頭がぼーっとしていく……)

 身体全体から熱が溢れ、更に息が苦しくなる。
 30秒程経過した後。成哉が、唇を私から離して口をひらいた。

「……移動しようか」

 彼の目線はふかふかの白いベッドの先にある。

「あ、先にシャワー浴びる?」

 更に私に気を使ったのか、成哉はやや小声でそう尋ねてきた。
 だが、ここまで来てシャワーを浴びたら熱が冷めそうだ。

「いや、いい」

 私は上着を脱いで荷物をテーブルに置いた。そしてベッドにゆっくりと座る。

「じゃあ……」
「うん」

 成哉の身体が、私を包み込むように覆いかぶさってきた。


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