一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 そう言ってにこやかに笑う成哉の顔を見て、私の胸の中にあった緊張の糸玉がすこしほどけたような気がしたのだった。
 それにしても黒髪をツーブロック姿にしてセットした彼の着物姿も良いものだ。見ていて爽やかだし、かっこいい。

「あ」

 おなかの中が何か一瞬だけ動いたような気がした。この所ちょいちょいある現象だ。

「動いた?」
「うん。一瞬だけ」
「元気そうでよかった」
「だね」

 私は勤め先の総合病院にある産婦人科を定期的に受診し、検診を受けている。担当してくださっている女医は穏やかだが、とても熱心に診察し相談にも乗ってくれる人物だ。彼女に出産に関して不安な部分を打ち明けると何でも答えてくれるので本当に助かっている。

「あ、そろそろ時間ですよ」
 
 メイクルームのスタッフにそう言われ、私達はその場を後にしたのだった。
 
「式、ドキドキしてきた?」
「成哉さんと話してるとちょっと楽になれた」

 少しの不安でも和らげてくれる私にとって彼の存在はとてつもなく大きい。
 結婚式が終わった後。それから月日はあっという間に流れ、娘が誕生した。出産時には手術を終えたばかりの成哉もすぐ近くで立ち会ってくれた。看護師と共にサポートしてくれて感謝しかない。
 ちなみに出産は無痛分娩で行われのだが、その麻酔をかける処置の時点でスクラブ姿の成哉がサポートに入ってくれたので産婦人科の担当医も成哉の存在が心強かったと語っていた。

< 52 / 135 >

この作品をシェア

pagetop