一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 ふと、後ろを振り返ると保育士の読み聞かせに子供達は夢中になって聞いていた。

「シンデレラに声をかけたのは、魔法使いのおばあさんでした。舞踏会に行きたいなら、私が魔法をかけてあげるわ」

 紫色のフード付きローブを身に纏ったふくよかな魔法使いが、ぼろぼろの状態となったドレスを着ているシンデレラへ魔法をかけるシーンを描いた絵が目に飛び込んでくる。

(魔法があったら、どんな世界になってただろう)

 多分自分の欲に忠実に使う事だけは理解できたので、妄想はやめて帰路についたのだった。自宅に戻るとお手伝いさんがいつものように扉を開けて出迎えてくれる。

「奥さまおかえりなさい」
「ただいま戻りました。託児所決まりましたんで手続きもしてきました」
「そうですかぁ。良かったです」
「いえいえ。電話してくれてありがとうございました。助かりました」

 産休から職場復帰の日までは長い期間が空いている。ブランクは結構空いているがそれでも頑張らなければ。

「ただいまあ」

 この日の成哉は夜遅くに帰って来た。お手伝いさんと共にご飯を温めなおして彼へ提供する。彼はお腹が空き過ぎていたようで病院のコンビニでおにぎりや揚げ物を何個か買ってきて夕食と一緒に食べている。

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