一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 その後はあっという間に話が進んだ。保育士が用意してくれた書類一式に署名し、託児所利用に関する説明を一通り受けると託児所利用が正式に決まった。

「では、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。あ、藤堂さん。ミルクの用意は忘れずにお願いしますね」
「分かりました」

 手続きが終わり、託児所を出ようとしたらキッズスペースでは読み聞かせが始まった。読み聞かせしている絵本には継母達によってドレスをぼろぼろにされたシンデレラがロープを着た魔法使いと出会い、魔法にかけられているシーンが描かれている。

「魔法使いはシンデレラに魔法をかけました」

 その後シンデレラがどうなるのかは勿論知っている。ただ幼児らは結末を知らないのか、黙って絵本に釘付けになっていた。
 
(それにしてもここは静かで通いやすい)

 私とまことは託児所を出て、病院前に停車してあるタクシーに乗車して自宅へと帰る事にした。そのタクシーに乗る前の事だ。

(結構車の行き交いが多いかも?)

 この夕方前の時間帯のわりには、車の行き交いが多い気がする。それも黒塗りの高級車の数が多い。

(何かあるんだろうか)

 まことの気になるのか、道を走る黒塗りの高級車に向けて左腕をのばしている。
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