一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 お手伝いさんが右手を扇子のようにして仰ぎながら、匂いを嗅ぐ。何度も頷くと私に向けて親指を立てた。

「良い匂いですね」

 試しにお手伝いさんと同じようにして手で仰ぎながら匂いを嗅ぐと、豚肉と鳥つくね、野菜から出た柔らかなだしの風味が鼻の奥まで届く。

「うん、美味しそうですねえ」
「そろそろ煮立ってきましたし、お味噌入れましょうか」

 お手伝いさんがグレー色の冷蔵庫を開けて中から取り出したのは米麹の味噌汁。減塩と書いてあるが割と少な目の量でもはっきりしっかりと味が付いてとても美味しいお味噌だ。
 お味噌をお玉にすくい、菜箸を使って鍋の中で味噌を溶いていく。するとお味噌の風味が更に鍋の中で具材と混ざり合ってさっきよりも濃い味の風味が湯気と共に鼻の奥まで届いてくる。これは食べる時が楽しみだ。
 お味噌を入れて一煮立ちさせると火を止めて、鍋にふたをする。

「奥さま、少しお休みになられては?」
「いいんですか?」
「成哉さんも今日は遅いと聞いていますし……まことちゃんは私達が見ておくので少しだけ仮眠でもいかがですか?」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」

 確かに眠気と疲れが少しだけ押し寄せてきていたのでここは休んだ方がいいだろう。

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