一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「あれ、まだ鳴るのかな?」
「愛海?」
「ほら、あのオルゴール」
「ああ、あれね」

 成哉も気になるような視線を送る。するとたまたま近くを店員が通ったので聞いてみる事にした。

「ああ、あれもう鳴らないんです。かなりの年代物でして」
「そうなんですか」
「あの、鳴らないので良かったらお譲りしますよ」
「えっ」

 突然の譲渡の申し出に私は目を丸くさせる。成哉も戸惑いながら良いのかと聞くと店員はぜひと答える。

「実は今年でお店閉める予定なんです。なのでアンティークの小物は欲しい方がいればその方に譲渡していってるんですよ」
「そうなんですか?」

 初めて訪れた場所がもう閉店が決まっているなんて思いもしていなかっただけに、言語化出来ない複雑な感情が胸の中に湧いて出る。

(まだ今日しか来てないのに)
「それは残念です」
「確か今日初めてでしたよね? なんかすみません……」
「あ、そうだ。愛海良い事考えたんだけど」

 成哉が何かを思いついたのか、私の顔に近付き耳元で呟いた。

「ここの喫茶店愛海が受け継いだら良いんじゃないかな?」
「えっ?」

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