一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
「?!」

 前方から黒塗りの高級車が道路上にて逆走してきた赤い車とぶつかった。  

(えっ、事故?)

 と思った時、黒塗りの高級車が弾き飛ばされたかのようにこちらに向かって突っ込んでくる。

「あぶない!」

 私はまことを力強く抱きしめ、その場から逃げたが身体全体に重い衝撃が伝わってくる。

(あ……死んだ)

 そしてそのまま、私の視界は真っ暗になり、何にも聞こえなくなった。
 
「……」

 ゆっくりと目を開く。視界に現れたのは白い天井にカーテンレール。

(あ、生きてた)

 どうやら、私は生きていたようだ。だが、まことはどうなっているのか。しかもなんだか身体が変だ。首から下が感覚が無いというか、動く気配が感じられない。

「藤堂先生! 奥さまが目覚めました!」

 近くにいた女性の看護師が、成哉を呼ぶ。そして私の視界に成哉の顔がひょこっと生えてきた。

「愛海! 気がついたか?!」
「うん……まことは?」
「まことは顔と腕を少し擦りむいただけで何とも無い。CTも異常なしだ」
「そ、そっか……あのね、成哉さん。私……」
「分かってる。感覚が変なんだろ? 無理に動かすな。あちこち怪我してるし脊髄損傷もあるんだ」
「……え?」

 成哉が告げた言葉全てが、私の身体に岩のように重くのしかかる。

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