彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「俺のマンション低層だからな。夜景を見るならツインタワーかなとは思ったんだが、どうせならもっと高い方がいいだろう?」

「それでヘリコプターですか⁉︎」

「思い立ったが吉日っていうじゃないか」

「だからって、今日の今日でよく予約できましたね。しかも土曜日だし」

「問題ないよ」

涼しい顔で答える彼に、返す言葉を失ってしまった。

私の驚く顔が見たいからと、ここまでやってしまう尋常でないスケールは、私の許容範囲を軽く超えていった。


地上に広がる圧巻の景色に感嘆の息が漏れる。
『上空から中継です。ご覧ください、この絶景』などと、たまにテレビで目にするが、そんなに感動を覚えるほどのものでもなかった。キレイというどこにでもある一般的な感情だ。
それが今、見事に覆されている。遊覧中はため息の連続だった。
飛行を終え着陸した後も、ため息は続いた。 
30分上空にいたようだが、5分の間違いではないのかと思ってしまうほど魅力的な時間だった。

「美音、楽しんでくれたか?」

「はいっ!もう、あっという間に終わってしまいました」

「いい笑顔だ。また乗ろうな」

「いいんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます!」

「美音、腹減っただろう?」

「胸いっぱいで空いているのかいないのかわかりません」

彼がプッと吹き出す。

「相当気に入ったとみた。さっきの遊覧」

「気に入ったのレベルではありません。もうホントすっごく楽しかったんです」

「誘ってよかった」

彼が、とても優しい顔をする。
私ばかりがこんなに楽しい思いをさせてもらって良いのだろうか。いや、良くない。
帰国した足でそのままパーティーに出席したと言っていた。しかも、今日は朝早くから私たちのために動いてくれた。
きっと疲れも溜まっているはずだ。
私に出来ることはないだろうか……
そうだ!
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