彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
彷徨う
◆◆◆◆◆


「今すぐ結婚してもらえませんか?」

頬をほんのり赤く染めた美音を前に、思わず固まってしまった。
まさか逆プロポーズをされるとは思ってもみなかったからだ。

そして、ぎこちないキスが落とされ、愛しさのあまり俺は限界を超えてしまった。

美音から元彼の話を聞いた時、俺は湧き出る欲情を抑え込むことに決めた。
セックスに対してトラウマに似た感情をもつ彼女を傷つけたくはないと思ったからだ。
自分の欲望だけを押し付ける元彼の一方的な行為に怒りさえ覚えた。
俺はそいつとは違う。美音が求めるまで俺からは手を出さない。そう決めた。
だが、もう無理だった。

美音を抱えベッドに横たえた。
強引な行為だけはしたくない。彼女には気持ちよくなってもらいたい。彼女の反応を見ながら、必死に自分を抑え彼女を抱いた。
 
柔和な笑みを浮かべ、俺の胸で眠る美音。
俺はホッとした。自分自身も満たされた。
愛しい寝顔を見ながらそう思っていた。

でもそれが、これまで治まっていた肉欲を呼び覚ますゴングだったと気づいたのは、翌日、執刀医として手術を終えた後だった。

本来なら、美音が待つマンションに飛んで帰るつもりだった。愛しい彼女を抱きしめたい。少しでも長く一緒にいたい。だが俺は、自分自身でブレーキをかけた。

このまま帰宅し、美音を前にした時、必ず俺の肉欲は限界を超える。きっと美音の気持ちを優先できないくらい自分勝手な行為に及ぶだろう。やめてと言われても止められる自信がない。そうなれば、今度こそ、美音は立ち直れないほどの傷を負う。

このままでは帰れない。
患者さんの術後の容態も気になる。
俺はそのまま医局に泊まることにした。
だが、今週来週と執刀は続く。

このまま帰宅しないとなれば、コンプライアンスにも引っかかる。どうしたものかと悩んだ末、24時間ジムが使えるホテルに泊まることにした。
湧き上がる肉欲を発散させるため、トレーニングに集中する。そうやって誤魔化しながら過ごしてきた。
だが、この生活もさすがに限界だ。
美音に会いたい。抱きしめたい。
美音を抱いたあの日から、二週間が経とうとしていた。
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