彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
それから思い当たる場所を探し回ったが、美音はどこにもいなかった。
実家マンションのインターホンを押しても応答はなかった。
もしかして、アイツと一緒にいるのだろうか。
いや、美音に限ってそんなことはない。

邪念を振り払うように、美音の行き先を探す。
やはり考えられるのは実家しかない。
俺は一度自宅に戻り、自室のデスク引き出しにしまっていた鍵を取り出した。

美音の母、玲子さんを空港に送って行き、美音が化粧室に行くとその場を離れた時だった。

「俊佑さん、これ、貴方に渡しておくわ」

「これは……」

音符のキーホルダーがついている。

「マンションの鍵よ。私、殆ど海外で日本にはいないでしょう。もしもの時のために持っておいて欲しいの。どれだけ仲が良くても、もしかしたら喧嘩することがあるかもしれない。その時、あの子はきっとマンションに帰って来ると思うのね。だから、俊佑さんにお願いがあるの。貴方が美音を迎えに行ってくれないかしら。美音が出てこなければ、この鍵を使って入ればいいわ」

あの時の玲子さんの言葉が浮かんだ。
喧嘩をしているつもりはないが、もし、病院にいると思っていた俺がホテルにいると知ったなら、メールも既読にならず、電話にも出ないとなれば……
完全に黙っていた俺が悪い。

居ても立っても居られず、俺は美音の実家へ車を飛ばした。

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