彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
◆◆◆◆◆

「どどどどどうしよう!」

美音を会社に送り届けて、マンションに帰り着いてから間もなくのことだった。
尋常ではない動揺ぶりに嫌な予感が頭をよぎる。

永峰さんが倒れた。

嫌な予感は現実のものとなった。とにかく、情報を聞き出さなければ何も対処できない。
まずは美音を落ち着かせよう。
深呼吸をさせると、電話口の話しぶりから落ち着いてきた様子が伝わった。

少しずつ状況を聞き出していく。

救急車は呼んでいる。
意識なし。
呼吸なし。

心肺停止か……
時間との戦いになる。心配蘇生が急務だ。

その場にいる人にも俺の声が聞こえるようにスピーカーに切り替えさせた。

「医師の高椿です。近くにAEDはありますか?」

「あります!」

「使えますか?」

「はい」

力強い返事が返ってきた。

朝戸専務、永峰さんの一人娘、梨花さんのご主人だ。

「朝戸さん、AEDの準備をお願いします」

「わかりました」

AED (自動体外式除細動器)を設置していても、使い方がわからないといった理由で、使用を躊躇してしまう人も多い。
永峰電気工事店では、定期的に訓練を行なっているのだろう。そうでなければ、力強い返事など返ってくるはずがない。

蘇生はきっと上手くいく。

俺は倒れる前の様子も確認する。
梨香さんによれば、朝からずっと胸が痛いと訴えていて、少し吐き気もあるとのこと。

症状から導き出せるのは虚血性心疾患。痛みがずっと続いていたとなると……心筋梗塞か……

永峰さんはベリが丘総合病院に搬送してもらおう。
俺は取るものもとりあえず病院へ向かった。

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