彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
昭二おじさんが日常の生活に戻り、私も俊佑さんも穏やかな日々を送っている。

患者さんの容態によって急に呼び出されることはしょっちゅうだし、寂しい想いをすることもあるけれど、それ以上に頑張って欲しいと思う気持ちの方が強い。

昭二おじさんの手術が終わり、濃紺のスクラブ姿で現れた俊佑さんは、私の目に強く焼き付いている。
世界一かっこよくて素敵なお医者様だ。
たくさんの人の命を救って欲しい。心からそう思う。

執刀し、帰宅した俊佑さんを私は全力で受け止め、幸せを噛み締める。
心地よい疲労感でまったりとしているところに突然沙織さんがやって来て、慌てて身だしなみを整える、といったことも少なくない。

そして今日も、彼女は突然現れた。

「また来たのかよ」

「可愛い義妹の顔を見に来たのよ」

「はいはい」

「美音ちゃん、エステに行きましょう」

「今からですか?」

チッチッチッと、人さし指を横に振る。

「ブライダルエステ」

「えっ⁉︎」

「そろそろ結婚式してもいいんじゃない?永峰社長も術後検査に問題はなかったんでしょう?」

「あぁ」

「私が完全プロデュースさせてもらうわ、うふっ」

最後の "うふっ" が気になる。

「そうねぇ、場所はオーベルジュにしましょう。大々的なものにしてしまうと、せっかくの結婚式が賀詞交換会になっちゃうから、身内だけの式にしましょう」

オーベルジュは、世界的庭園デザイナーが手がけたプライベートガーデンが有名だ。宿泊施設を備えた会員制レストランでチャペルもある。駅近とは思えない静寂さを感じる隠れ家リゾートとして、アッパー層御用達だ。

先日、私も初めて訪れた。俊佑さんが食事に連れて行ってくれたのだ。空を近くに感じられる木々に囲まれた静寂な庭が神聖な空気を醸し出していて、こんな場所で結婚式を挙げたら素敵だろうなと思ったのだ。
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