彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「相当張り切ってるな」

「とっても嬉しいです。お父さんやお母様のことまで考えててくれて」

「そうだな。沙織はなんだかんだ言って、兄弟の中で一番情に厚いんだ。でも、美音に対する情は、誰がなんと言おうと俺の方が深い」

「うふふっ、そうですね」

「しかし、美音を拉致されると思っていたが、想定外だったな。願ったり叶ったりだ。よし、美音、今日一日イチャチャするぞ」

「俊佑さん」

「なんだ?」

「イチャイチャをご所望のところ申し訳ありませんが、今日はがっちゃんのピアノレッスンの日です」

「え……」

「ごめんなさい」

「まぁ、仕方ないな。がっちゃんにはどうやって教えているんだ?」

「膝の上に座らせて、鍵盤で遊んでます。でも、最近はちゃんと自分で座って楽しそうに弾いてくれるんですよ」

「……」

「俊佑さん?どうかしました?」

「膝の上?」

「はい」

「美音の?」

「はい」

「それは聞き捨てならないな」

「え?」

「俺はイチャイチャできないんだぞ。がっちゃんは膝の上か?」

「え…… 俊佑さん、それ本気で言ってますか?」 

「あたりまえだ」

プイッとそっぽを向いた。

あぁ、これは本気だ。拗ねている。もの凄く拗ねている。
そういえば、前にもこんなことがあったなぁ。
思い出して吹き出してしまった。

「なんで笑うんだよ」

「幸せだなぁと思って」

「どこが幸せな」

私は俊佑さんの言葉を遮るように唇を重ねた。

「俊佑さん、イチャイチャしましょう。がっちゃんのレッスンまでまだ時間はたっぷりあります。それまで私、俊佑さんから離れませんよ」

「望むところだ」

「俊佑さん」

「ん?」

「愛してます。俊佑さんを凄く凄く愛してます」

「美音……」

彼の手が優しく私の髪を撫でる。

「俺も愛してる。美音を凄く凄く愛してる」

彼の穏やかな声音が、私の中で心地よく広がっていった。
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