彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
仁と玲子の恋物語
将来が見えないまま、季節は秋を迎えた。
ひんやりとした空気を感じる10月下旬、今日は父の誕生日であり、命日でもある。

私は母と共にお墓参りにやって来た。
普段あちらこちらと飛び回っている母も、この日だけは必ず家にいて、一緒に花を買い、ここに来る。

小高い丘の上にある見晴らしの良い場所。

母が花を生け、私が線香に火をつけた。
二人並んで手を合わせ、しばらく父と心で会話する。私が顔を上げても、母は手を合わせたままだ。

今日は何を話しているのだろう……


桃園仁(ももぞのじん)、私の大好きな父。
母が愛したたった一人の人。
私が中学2年生の時病気で亡くなった。膵臓癌だった。
腫瘍が見つかった時にはすでに末期の状態だったが、生きることを諦めず最後まで闘った強くてかっこいい人だ。

父は大手電気工事会社の第一種電気工事士で、中でも卓越したスキルを持ち、エースと言われる存在だった。

クリスマスシーズンを迎える季節、父はベリが丘にあるBCストリートやホテルデュスイートべりが丘のイルミネーション設置にも携わっていた。母はそのホテルのラウンジピアニストだ。

腰にたくさんの道具を装着し、脚立を使い電飾を取り付けていく。緻密に計算された位置に慣れた手つきで確実に。そんな寡黙な父の姿に母が一目惚れした。
光の庭園とも称されるロビーラウンジのイルミネーション。
父が取り付けたそのイルミネーションの光に包まれながら演奏するのが、母の密かな楽しみだった。
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