彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
我が家は父が料理担当で、母が掃除担当だった。
父の料理はとても美味しいし、母の掃除は完璧だった。家事がダメな母でも、掃除は嫌いではなかったらしく、本腰を入れたら、清掃会社を立ち上げられるのではないかというほどまでにスキルを上げたのだ。

苦手な部分を補い合い、お互いを尊敬し合う。
交際はほぼ0日だが、愛情に満ち溢れた夫婦だった。

この広い世界で、惹かれ合うべくして惹かれあった強力な磁石のような夫婦だと表現しても大袈裟ではないと思う。

結婚して私が生まれ、私のことも二人で協力し合って大切に育ててくれた。父に至っては溺愛だ。私がちょっと転んだだけで大騒ぎするほど。
共働きでも私に寂しい思いをさせないよう、常にどちらかが傍にいてくれた。殆ど日中が仕事の父は夜、逆に夜が仕事の母は日中というふうに。


幼稚園に上がると、父は母の演奏を聴きに連れて行ってくれた。
うさぎが刺繍されたお気に入りのショルダーポーチはおでかけには欠かせない。ピンク色のそのポーチには、ポケットティッシュとハンカチ、それから、父が魔法をかけてくれた棒付きキャンディが入っている。

"元気が出る魔法" だ。

銀世界に薔薇が咲き誇ったようなイルミネーションの空間。父が作り上げた私の大好きな空間で、父に手を繋がれ母の演奏を聴く。父の顔を見上げると、いつも優しい表情で母を見守っていた。

私は両親の喧嘩を見たことがない。

「玲ちゃん」
「仁くん」

お互いをそう呼び合い、いつも笑顔だった。


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