彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
ある日、父は母と4歳になった私を連れ、ベリが丘に新しく建築された高層分譲マンションの一室にやって来た。
父が私を抱きかかえ窓際へ移動する。

「うわぁ〜すごぉ〜い、たかぁ〜い!」

「美音、この部屋好きか?」

「うん!美音、このおへやだぁ〜いすき〜。うわぁ〜おっきなおふねがあるぅ〜、すごぉ〜い」

近くには港があり、豪華客船が停泊している。ヘリポートもある。

「仁くん、この部屋は?」

「俺たちの新居だ」

「え⁉︎ 買ったの?」

「このマンションのモデルルームができた時、すぐに内見したんだ。防音で港も見えるって言われたから即決した。内緒にしててごめん。どうしても玲ちゃんにプレゼントしたかったんだ。このリビングは玲ちゃんのグランドピアノも置ける広さだし、それに、なんといっても玲ちゃんの好きな海が見えるだろう。ローン審査も通ったから買ってしまった」

母はしばらく固まっていた。

「玲ちゃん?」

「……」

「やっぱ怒るよな、勝手なことして」

「違う……」

「ん?」

「違うよ、仁くん。私、嬉しいの。嬉しくて嬉しくて、泣く、今から泣く。仁くん胸貸して」

「美音、ちょっとお母さんと交代な」

抱いていた私をそっと下ろし、母を抱き寄せた。

「仁くんはやっぱりとんでもない人だった。私の旦那様はホントに最高。この部屋は宝物だし、私たちの大切な空間だわ。ありがとう」

母は父の胸に顔を埋め、何度も何度もありがとうを伝えていた。
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