彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
母がようやく父との会話を終え、顔を上げた。

「何をそんなに話してたんだ?」

右手の方から男性の声がする。

声の方を向くと、こんがりと日焼けした男性が、レジ袋を手に、こちらに笑みを向けていた。

「昭二さん!」

永峰昭二(ながみねしょうじ)
父の親友で元同僚。今は永峰電気工事店の社長だ。父が亡くなった同時期に父親の後を継いだ。
永峰電気工事店は、迅速丁寧な仕事ぶりが評価されている企業であり、社長自身も2年前、卓越した電気工事技能者に選出され表彰を受けている。仁が生きていたら、文句なしにあいつが選ばれていたはずだと謙遜していたが、数名だった社員を今や100人を超える大所帯にしてしまうほど、卓越した電気工事士でありながら、優れた経営者でもあるのだ。

「こんにちは、昭二おじさん」

「二人とも久しぶり」

「今年も来てくださったんですね。仁くんも喜びます」

「いや、邪魔すんなってぼやいているかもな」

昭二おじさんはお墓の前に腰を下ろすと、レジ袋から缶ビールを取り出し、花の横に供え手を合わせた。

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