彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
父との会話が終わるとゆっくりと立ち上がる。

「玲ちゃんは相変わらず海外を飛び回っているのか?」

「ええ、性に合ってるみたいで」

「仁が一番喜んでいるかもな。世界中の人たちに玲ちゃんのピアノを聴いてもらいたいって言ってたから」

「昭二さんにそんなこと言ってたんですか?」

「言ってたよ。仁はずっと玲ちゃんのファンだったから」

「え?」

「仁はね、玲ちゃんと結婚するずっと前から玲ちゃんに惚れてたんだ。一目惚れだったんだよ」

「う…そ……」

「嘘じゃない。気づかないのも無理ないよな。あいつ、ポーカーフェイスだったから。玲ちゃんからプロポーズされて、俺の前では顔が緩みっぱなしだったけどね」

「そう、だったんですね……」

「仁、話しちまったけど、時効だからもういいよな。そのビールで許してくれ」

まるでこの場に父がいるようだ。

「じゃあ、お父さんとお母さんは結婚前から相思相愛だったってことだよね」

「そういうことだ」

「お父さん、暴露されちゃった」

「仁くんの意地悪。でも嬉しい。私の一方的な片思いじゃなかったのね。もう、仁くんったら、ホントにもう……」

顔を赤らめながら頬を膨らませる母がとても可愛い。
こんな母のことが父は愛しくてたまらなかったのだろうな。そう思うと、私の顔はだらしないほどに緩んでしまった。
< 25 / 151 >

この作品をシェア

pagetop