彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「ところで美音ちゃん、耳の具合はどうだ?」

「今は落ち着いています」

「そうか、それは良かった。就活は?」

「え……」

緩んでいた顔が、一気に引き攣ってしまった。

普段の昭二おじさんなら、私が傷つくことは絶対口にしないはずなのに、どうしたのだろう。

「その反応が答えだな」

空笑いするしかない。

「美音ちゃん、うちで事務員として働かないか?」

「えっ?」

「娘が4月に産休に入るんだよ。事業も拡大して、総務も人手が足りなくなってきたところだったから、美音ちゃんが入社してくれたら助かるんだが」

梨香(りか)ちゃん、おめでただったんですか⁉︎」

「そうなんだよ、俺も来年には爺ちゃんだ」

梨香さんは私より3歳上で、昭二おじさんの一人娘だ。去年、10歳年上の電気工事士と結婚した。昭二おじさんの右腕と言われている人だ。

梨香さんとは昔よく遊んでいた。活発で、太陽のような人だった。私のことを妹のように可愛がってくれていたのだが、父が亡くなってからは会う機会も減り、もう久しく会っていない。  
結婚したことは一年前この場所で聞いていた。

「梨香さん、お母さんになるんだ。凄いなぁ」

「いつまでも子供だと思っていたが、妊娠して顔つきが変わったな。つくづく母親は強いって思ったよ。つわりで辛いはずなのに、赤ちゃんが頑張っている証だから自分も頑張るって、ホント、凄いよな」

私自身も、母親は偉大だと心の底から思っている。
そんな母親に私もいつかなれる時が来るのだろうか。
その前に相手が必要だが、もう懲り懲りだと思う自分がいる。私にはきっと、両親みたいに人を見る目はない。
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