彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
トントントンと部屋がノックされ、梨香さんがお茶を持ってきてくれた。
「梨香、後で美音ちゃんに社内を案内してやってくれ」
「かしこまりました。美音ちゃん、あとでね」
「はい」
梨香さんが応接室を出て行った後、永峰電気工事店がどんな仕事をしているのか、専務の雅志さんが説明してくれた。
大型ビルや公共施設などの電気設備工事、競技場や公園道路の照明設備工事、イルミネーションの企画デザイン提案、施工、取付、委託管理業務を行っているとのことだった。
一通り説明を終えると、何か質問はないかと訊かれたが、丁寧に説明してくれたので、今のところはないが、実際仕事を始めたら質問だらけになりそうだと答えると、二人とも「確かにそうだと」顔を合わせて笑っていた。
和やかな雰囲気の中、専務の視線が私の頭上を向く。
どうやら壁掛け時計を確認していたようだ。
「社長、そろそろ時間です。行きますよ」
「あぁ、そうだった。なんで時間を早めるんだよ」
「仕方ないでしょ、先方の都合なんですから」
「俺は美音ちゃんと話してる方がいい」
「我儘言わないでください」
昭二おじさんが不貞腐れたように口を尖らせる。
「そんな顔してもダメですよ」
「わかったよ。美音ちゃん、何かあれば梨香に言いなさい。一応、総務課長だからね」
「はい」
「美音さん、内定おめでとう」
専務から内定という言葉を聞き、背負っていた大きなものから解放されたような気がした。でもそれは一瞬のこと。ほぼ同時に、新たなものを背負ってしまったからだ。