彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
全ての部署の見学を終えたあと、梨香さんに誘われ、会社近くのうどん屋さんで昼食をとった。

この辺りでは珍しい讃岐うどんだ。父は四国出身なので、コシの強い麺に、出汁のきいたつゆが我が家の味なのだが、その味をこの地で味わえるなんて思ってもみなかった。柚子の風味も我が家と同じだ。

「うふふっ、この味、仁おじさんの味でしょ」

「はい!びっくりしています」

「だと思った。このお店、私もだけど、雅志さんも父も母も、みんなお気に入りなの。美音ちゃんも気に入ってくれるんじゃないかと思って」

「はい!また来たいです」

「よかった」

「私、つわりで食欲がなくて大好物も食べれなくなってしまったんだけど、ここの釜揚げうどんだけは喉を通ったの」

「梨香さん、つわり、辛かったでしょう。よく頑張りましたね」

「美音ちゃん……ありがとう」

私が笑みを向けると、梨香さんも微笑んだ。

「もしかしたら、赤ちゃんの大好物は釜揚げうどんになるかもしれませんよ」

「うふふっ、ホントそうかも。うどんデビューが楽しみ」

「私も楽しみです。生まれたら抱っこさせてもらっていいですか?」

「もちろんよ!」

「ありがとうございます」

「入社したら、またランチしようね」

「はい!」

「さぁ、早く食べなきゃ伸びちゃうわ」

「麺のコシがなくなっちゃいますね」

「そうなったらもう讃岐ではないわね」

「そうですね」

クスッと二人で笑い合った。
< 33 / 151 >

この作品をシェア

pagetop