彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
入社して数週間が経ち、肌で感じたのは、アットホームということだ。
面接時に、社長に拾われた社員が殆どだと専務が言っていたが、どうやら眞壁さんもその一人らしい。
名門といわれる進学校に入学したが、陰湿ないじめに遭い中退。人に恐怖を抱き、引きこもりになってしまった。もともと勉強は好きだったので、通信高校に編入し学びながら、簿記や宅建など、独学で学んでいたそうだ。
ある日、眞壁さんの自宅に配線工事でやって来た社長が、眞壁さんの母親との会話の中で眞壁さんの存在を知り、手を差し伸べた。
眞壁さんは、その差し伸べられた手をしっかりと握ったのだ。
社長や梨香さん、専務に出会い、少しずつ人に対する恐怖を克服していった。

永峰電気工事店は、眞壁さんのような社員が大勢いる。人の痛みを理解し振舞える温かい人たちの集まりなのだ。
声を荒げる人などいない。
仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいの私に対しても、私のペースに配慮して懇切丁寧に指導してくれた。

私は、余計なストレスを抱えることなく毎日を過ごすことができている。仕事自体もやりがいがある。
でも一つだけ、拭えきれない不安要素が私の心の中に居座っている。
それは、入社してすぐのことだった。
< 35 / 151 >

この作品をシェア

pagetop