彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「場所を移しましょうか」

「は、はい」

高椿さんに連れられ、ホテル内にあるカフェにやって来た。
奥の席に通され、腰を下ろすと、黒服の男性が丁寧にお辞儀をし、メニューを広げ差し出した。

流れるような動作に見惚れてしまう。
さすが一流ホテルだ。

「なんでも好きなものを頼んでくださいね。モンブランケーキなんか最高に美味しいわよ。ドリンクもどうぞ」

上品な文字で書かれたメニューの中に "モン・ブラン・オ・マロン 丹波栗 " というのを見つけたが、一桁間違っているのではないかと目を疑うような金額に目眩がしそうになった。

「ケーキは結構です」

できることなら飲み物も断りたいが、この場面で断っても良いのだろうか……

「そう? モンブラン苦手だったかしら」

「いいえ、そういうわけでは……まだお昼ご飯がお腹に残っているといいますか……」

「そう、なのね……でも、飲み物だけは譲れないわ。何がいいかしら」

もう断れない雰囲気だ。どうしよう……

「私はカフェオレをいただくわ」

「私も同じものをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ」

注文を取りに来たスタッフが「カフェオレでよろしいですか?」高椿さんに確認する。

え⁉︎ 何も言っていないのにカフェオレって……

あぁそうか、一流ホテルなら、お客様の好みは把握済みか。
きっと目の前の美しい女性(ひと)は、お嬢様の中のお嬢様なのだろう。
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