彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
運ばれてきたカフェオレにぎこちなく口をつける私と、ドラマのワンシーンかと思えるほど優雅に嗜む高椿さん。周囲の目にはどんなふうに映っているのだろう。
高椿さんが持っていたカップをそっとソーサーに置き、姿勢を正すと私を見据えた。私もつられるように姿勢を正す。
「単刀直入に言います。明日、このホテルのロビーラウンジでピアノを弾いてほしいの」
「…… 」
「ダメ、かしら」
え? 何か聞き間違えた?
「あのぅ、今なんとおっしゃいましたか?」
「貴女にピアノを弾いてほしいの。明日、高椿グループの創立100周年パーティーを行うんだけど、ロビーラウンジでウエルカムドリンクを振舞うことになっているの。それで、ピアノの生演奏を予定していたんだけれども、ピアニストがインフルエンザにかかってしまったのよ。音楽事務所の集団感染。突然のことで困り果てていたところに、永峰社長が声をかけてくださったの。永峰電気工事店(うち)に音大卒業の社員がいる。話をしてみるかい?って」
「社長が……」
「ええ、 今回はクリスマスにちなんだ曲をこちらでリストアップしているから、それを弾いて欲しいと思っているの。 だけど、ラウンジ演奏はコンクールとは違う。あくまでも主役はお客様。臨機応変に対応できるスキルがなければ演奏自体の意味がなくなってしまう。お願いしているのに、厚かましいことを言っているのわかってる。でも、譲れないの」
私が目指していたオーケストラと共演するようなピアニストと、母のようなラウンジピアニストでは演奏目的が全く違ってくる。
ラウンジピアニストは、お客様のいる空間や気分を居心地よくすることであって、演奏が押し付けになってはいけない。その場の雰囲気を読み取る観察力が求められ、母はその能力に長けている。
私はどうだろうか……
高椿さんが持っていたカップをそっとソーサーに置き、姿勢を正すと私を見据えた。私もつられるように姿勢を正す。
「単刀直入に言います。明日、このホテルのロビーラウンジでピアノを弾いてほしいの」
「…… 」
「ダメ、かしら」
え? 何か聞き間違えた?
「あのぅ、今なんとおっしゃいましたか?」
「貴女にピアノを弾いてほしいの。明日、高椿グループの創立100周年パーティーを行うんだけど、ロビーラウンジでウエルカムドリンクを振舞うことになっているの。それで、ピアノの生演奏を予定していたんだけれども、ピアニストがインフルエンザにかかってしまったのよ。音楽事務所の集団感染。突然のことで困り果てていたところに、永峰社長が声をかけてくださったの。永峰電気工事店(うち)に音大卒業の社員がいる。話をしてみるかい?って」
「社長が……」
「ええ、 今回はクリスマスにちなんだ曲をこちらでリストアップしているから、それを弾いて欲しいと思っているの。 だけど、ラウンジ演奏はコンクールとは違う。あくまでも主役はお客様。臨機応変に対応できるスキルがなければ演奏自体の意味がなくなってしまう。お願いしているのに、厚かましいことを言っているのわかってる。でも、譲れないの」
私が目指していたオーケストラと共演するようなピアニストと、母のようなラウンジピアニストでは演奏目的が全く違ってくる。
ラウンジピアニストは、お客様のいる空間や気分を居心地よくすることであって、演奏が押し付けになってはいけない。その場の雰囲気を読み取る観察力が求められ、母はその能力に長けている。
私はどうだろうか……