彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
彼のマンションの玄関ドアを開けるまで、私は少なからず不幸ではなかった。
就活は不採用を知らせるお祈りメールの嵐だったが、落ち込む私をいつも俊哉が励ましてくれていたから、次、頑張ろう!そう思えていた。

千財俊哉(せんざいとしや)は有名私大に通う4年生で私と同い年。優秀な彼は、ベリが丘タウンのビジネスエリアに本社を構えるIT企業 "ユニバースシステム" に就職が決まっている。爽やかな顔立ちで背も高い。

彼と出会ったのは大学3年に進学したばかりの頃だった。

夢を諦め、それまで打ち込んでいたものに費やしていた時間がなくなり、私にはたくさんの時間があった。
環境を変えてみようと、大学の近くにあるケーキショップでアルバイトを始めた。
ようやく店にも慣れ、休憩室で先輩の話に耳を傾けていると、突然合コンに誘われた。
合コンなど初めてだ。緊張して顔がこわばる。

「そんなに構えなくていいから、一緒に行こうよ、ねっ」

満面の笑みを向けられた。

「えっと……」

コミュニケーション能力値が著しく低い今までの私なら、すぐに断っていただろう。けれど、避けては通れない就活に向け、参加することで少しでも克服できるのならと、前向きな気持ちが働いた。

「わかりました。参加させてもらいます」

「そうこなくっちゃ!イケメン来るといいね」

無邪気にはしゃぐ先輩がとても眩しかった。


合コン当日、いざ参加したはいいものの、何をどうしたら良いのかわからず、挨拶以外は一番端の席で引き攣った笑みを浮かべ、皆の話を聞いていた。段々居心地も悪くなり、帰りたい気持ちが益々顔を引き攣らせる。

そんな時だ。スッと隣にやって来て、

「大丈夫?」

優しく声をかけてくれたのが俊哉だった。
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