彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
沙織さんに連れられ、パーティー会場へとやって来た。

重厚な扉を開けると、広々とした豪華な空間が目に飛び込んできた。
感嘆の息が漏れる。
立食レイアウトになって、各ブースごとに、シェフがその場で調理するという形式のようだ。

会場の中央でハリウッドスターを思わせる風貌の男性が、フォーマルスーツに身を包み、秘書らしき若い男性と何やら話をしている。

「あそこにいるのは兄の健太郎と秘書の渡辺さんよ」

沙織さんは私に耳打ちすると、彼らのもとへ歩み寄った。

「ごきげんようお兄様、もういらっしゃってたのね」

「今来たところだ」

「お義姉様の具合はどう?」

「辛そうだ。何もできない自分が腹立たしい」

「それは仕方ないわよ」

「ん?そちらの女性が?」
 
男性が私を見据える。上背があり、彼もまたエレガントな顔立ちだ。

「えぇ、ピアノ演奏を引き受けてくれた桃園美音さんよ」

「初めまして、桃園美音と申します。本日はよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、お力添えいただき、感謝申し上げます」

庶民の私にも丁重な挨拶、恐れ入る。

「妻も挨拶をと申しておりましたが、体調がすぐれないものですから、申し訳ありません」

「こちらこそ、気にかけていただいて、申し訳ないです。ありがとうございます」

「お義姉様はつわりが酷くて、なかなか食事も喉を通らないのよね?」

「あぁ、何か少しでも口にできればいいんだが」

「あ、あのぅ、差し出がましいようですが……」

「どうしたの?美音ちゃん」

「うちの会社の裏手にうどん屋さんがあるんですけど、そこの釜揚げうどんなら、もしかしたら喉を通るのではないかなぁと思いまして。柚子風味でさっぱりしているんです。総務課長も、つわりで何も食べられなくなった時、そのうどんだけは食べることができたと話していたものですから」

「総務課長さんは、確か永峰社長の娘さんよね?」

「はい、そうです」

「ねぇ、お兄様、試してみてはどうかしら」

「そうだな、食べさせてみようか」

「専務、早速手配いたします」

「あぁ、すまない」

後ろに控えていた渡辺さんは、一礼すると「失礼します」とその場を離れた。
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