彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「ねぇ、お兄様、お祖父様とお父様は?」

「VIPルームだが、そろそろここに来るんじゃないか? ほら、噂をすればなんとやらだ」

前方の扉が開き、威厳ある風貌の男性二人が姿を見せた。健太郎さんとはまた違ったオーラを放っている。
同じ場所にいるというのに、彼らの周りだけ緊張をはらんだ空気感だ。自然と背筋が伸びる。

「お祖父様、お父様」

沙織さんが声をかけると、緊張に満ちていた空気が、ふわりと柔らかいものになった。

彼らがこちらに歩いてくる。
私たちの目の前で立ち止まり、柔和な笑みを浮かべた。

沙織さんと出会って間もないが、私にはわかったことがある。どんなに緊迫した雰囲気であろうと、彼女がいるだけで、それを丸ごと包み込んでしまうような穏やかなものに変わるのだ。本人は自覚していないかもしれないが、きっと天性のものなのだと思う。

「紹介するわ。桃園美音さんよ」

「初めまして、桃園美音と申します」

「会えて嬉しいよ。お父さんと同じところにほくろがあるんだね。目元なんかはよく似ている」

えっ⁉︎

高椿会長の言葉に驚きを隠せない。
会長が父のことを知っているのは承知していたが、顔を覚えているどころか、ほくろの位置まで把握しているとは思ってもみなかった。

「お祖父様、美音ちゃんのお父様をご存じなの?」

「もちろん。彼は素晴らしい技能者だったからね。桃園君と永峰君、彼らの仕事振は群を抜いていた」

「ありがとうございます。そう言ったいただけて、父も喜んでいると思います」
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