彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
想い人
◆◆◆◆◆
奇麗だ
スパンコールのドレスに身を包み、グランドピアノを弾く彼女は女神のように輝いている。
俺はもうこれ以上、自分の気持ちを抑えることができそうにない。
20年前、この場所で、俺は彼女に恋をした。
母親が突然この世を去り、寂しさで押し潰されそうになっていた俺は、ホテルのロビーラウンジに流れるピアノ演奏で心を保っている状態だった。
曲を聴きにホテルへ行くと、時々父親らしき男性と手を繋ぎ、俺たちと同じように演奏を聴いている女の子を目にするようになった。
ツインテールで色白の可愛らしい女の子だ。
男性の顔を見上げ、嬉しそうに笑うその子の表情を、俺はいつの間にか求めるようになっていた。
あの日も、女の子は男性と手を繋ぎいつもの場所で演奏を聴いていた。
俺もいつもの場所に座っている。演奏を聴く時は必ず姉の沙織も一緒だったのだが、その日は俺と執事の二人だけだった。
天真爛漫の沙織が隣にいないのはやはり寂しい。
それが顔に出ていたのかもしれない。
いつも遠くから見ていた女の子が、こちらに向かって駆け出した。そして、ソファーに座っていた俺の前で立ち止まると、斜め掛けしていたピンク色のポーチから、キャラクターの棒付きキャンディを取り出した。
「お兄ちゃん、これあげる」
「え⁉︎」
「悲しいことがあったんでしょう? これね、元気が出る魔法の飴だよ。食べたら元気になるよ、どうぞ」
「僕にくれるの?」
「うん!」
俺は小さくて可愛らしい手からキャンディを受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
女の子はとびっきりの笑顔をくれた。
「みおん、帰ろうか」
「お兄ちゃん、バイバイ」
女の子は男性と手を繋ぎ、ホテルをあとにした。
あの時の笑顔を忘れることはない。
左目下の二つ並んだ泣きぼくろも、俺の脳裏に焼きついた。
奇麗だ
スパンコールのドレスに身を包み、グランドピアノを弾く彼女は女神のように輝いている。
俺はもうこれ以上、自分の気持ちを抑えることができそうにない。
20年前、この場所で、俺は彼女に恋をした。
母親が突然この世を去り、寂しさで押し潰されそうになっていた俺は、ホテルのロビーラウンジに流れるピアノ演奏で心を保っている状態だった。
曲を聴きにホテルへ行くと、時々父親らしき男性と手を繋ぎ、俺たちと同じように演奏を聴いている女の子を目にするようになった。
ツインテールで色白の可愛らしい女の子だ。
男性の顔を見上げ、嬉しそうに笑うその子の表情を、俺はいつの間にか求めるようになっていた。
あの日も、女の子は男性と手を繋ぎいつもの場所で演奏を聴いていた。
俺もいつもの場所に座っている。演奏を聴く時は必ず姉の沙織も一緒だったのだが、その日は俺と執事の二人だけだった。
天真爛漫の沙織が隣にいないのはやはり寂しい。
それが顔に出ていたのかもしれない。
いつも遠くから見ていた女の子が、こちらに向かって駆け出した。そして、ソファーに座っていた俺の前で立ち止まると、斜め掛けしていたピンク色のポーチから、キャラクターの棒付きキャンディを取り出した。
「お兄ちゃん、これあげる」
「え⁉︎」
「悲しいことがあったんでしょう? これね、元気が出る魔法の飴だよ。食べたら元気になるよ、どうぞ」
「僕にくれるの?」
「うん!」
俺は小さくて可愛らしい手からキャンディを受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
女の子はとびっきりの笑顔をくれた。
「みおん、帰ろうか」
「お兄ちゃん、バイバイ」
女の子は男性と手を繋ぎ、ホテルをあとにした。
あの時の笑顔を忘れることはない。
左目下の二つ並んだ泣きぼくろも、俺の脳裏に焼きついた。