彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「抜けようか」

耳元で囁かれ、体がピクリと跳ねた。

「居心地悪いよね」

「えっ」

「顔色悪いよ」

「そ、そうですかね」

彼は微笑むと、

「すみません、彼女、体調悪いみたいなんで、俺、送っていきます」

爽やかに宣言すると、店の壁にかけてあった薄手のオールドローズ色のスプリングコートを手に取った。

「これ、桃園さんのだよね?」

「はい」

「じゃあ、お先にすみません」

「すみません」

彼につられるように挨拶をし店を出た。
外の空気が心地よい。

「顔色良くなったね」

彼が微笑む。

「ありがとうございました」

「正直、俺も抜けたかったから。そのコート、似合ってるね」

「え?」

「桃園さんが部屋に入って来た時、凄く上品で可愛らしい人だなって見惚れてしまった」

「あ、あのっ、えっと…… 」

彼のストレートな言葉が、胸の奥をじわりと刺激する。思わず俯いてしまった。


「ねぇ、桃園さん、まだ時間大丈夫?」

「え、は、はい……」

「ラーメン食べに行く? 料理、殆ど手をつけてなかったよね? 俺、桃園さんのこと好きになったんだな。君しか目に入ってなかった」

他人事のようにさらりと口にする彼に驚きつつも、好きになった。しかも、君しか目に入っていなかったなどとストレートに告白され、鼓動が激しく脈打った。

「ラーメン嫌い?」

「好きです」

自然と笑みが溢れる。

「やばっ!」

「え?」

「その顔で好きって言われたら…… 俺、ラーメンになりてぇ」

片手を額に当て、空を仰ぐ仕草に顔が綻ぶ。本気とも冗談ともつかない彼の言動に、すっかり気を許していた。
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