彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
部屋に戻り、シャワーを浴びた。
リビングのドアを開けると、甘い香りが私を包む。

「ココア飲むでしょ?」

「うん」

カップを受け取りソファーに腰掛けると、母も隣に腰を下ろした。

「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」

相変わらず甘い!でも、

「美味しい」

「当たり前」

二人で笑い合った。

「美音、今日の演奏、本当に素敵だった。沙織さんには感謝してもしきれない」

「うん」

「ねぇ、美音」

「ん?」

「俊佑さん、きっと運命の人よ。断言してもいいわ」

「え⁉︎」

「あなたは覚えていないだろうけど、20年前、あなたたちは会っていたのよ。あなたがいつも大切に持っていた飴を、俊佑さんにあげたの」

「うん。それ、俊佑さんから聞いた。お母さん、誰かから聞いたの?」

母はゆっくりかぶりを振った。

「見ていたの」

「見てた?」

「ほら、ピアノの位置からはかなり広範囲を見渡すことができるでしょう」

確かに、言われてみればそうだ。

「お母さんね、沙織さんや俊佑さんのお母様とは親しくさせてもらっていたの。私をホテルのピアニストに指名したくれたのも彼女よ。わたしのファンだって言ってくれてたの。特に、今日美音が弾いた曲、全て彼女が好きな曲だった。突然彼女が亡くなったと知って信じられなかったわ。でも、一番信じられなかったのは家族よね。私に何か出来ることはないかと考えた時、やっぱりピアノしかないって思ったの。彼女が好きだった曲を届けようって。その曲が届いたのか、彼女の子供たちが私の演奏を聴きに来てくれるようになった。子供たちの姿が見えると、必ず彼女が好きだった曲を弾いたの」

私は、沙織さんが言っていたことを思い出していた。
母の音色が寂しさを埋めてくれたと。
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