彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
「あの日は、沙織さんの姿が見えなかった。俊佑さんといつも一緒に聴いてくれていたのに、どうしたのかしらって思いながら演奏していると、仁君と美音が手を繋いでホテルに入ってくるのが見えたわ。いつもの場所で、私のピアノを聴いていてくれてたんだけど、美音、あなたが突然駆け出したの。少しびっくりしてしまったけど、俊佑さんに飴を渡している姿を見て、お母さん、すごく嬉しかった。その時ね、ふと、あるシーンが頭に浮かんだのよ」

「シーン?」

「驚かないでよ」

母が私の目をしっかりと見据えた。

「純白のウエディングドレス姿の美音と、タキシード姿の俊佑さん。二人で見つめ合って微笑んでるの」

「え⁉︎」

「怒るかなぁと思ったんだけど、その事を仁君に話したの」

「お父さんなんて言ったの?」

「それ、現実になるような気がするって」

「うそ……」

「仁君が教えてくれたんだけど、見知らぬ女の子、かなり年下の女の子から、突然キャラクターの棒付きキャンディを渡されて、怪訝な顔一つせずとっても優しい顔で、ありがとうって受け取ってくれたって。しかも、元気が出る魔法がかかった飴だよって言われて、魔法が本当にあるのかないのかわかる年齢なのに、否定することもなく美音の気持ちを大切にしてくれたって。あぁ、将来この子が美音の旦那だったら、美音はきっと幸せになるんだろうなって、不覚にも思ってしまったって」

「なにそれ……」

「ね、驚きでしょ」

「うん……だから、運命、なんだね」

「そういうこと。それにね、美音、あなた病院に運んでもらったんでしょ。聞いたわよ」
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