亜美佳

「通う亜美佳」⑦



―――それではよろしくお願いします。と現場監督が会場設営の説明を終えた。説明によると、充たちはパイプやテントなどの運搬を行い、建設会社のスタッフが組み立てるという流れだった。充も寺内もこの種の設営作業には慣れており、特に疑問や質問はなかった。


「すみません、今日は5時までに終わりますか?」


 充の近くにいた同じ日雇いの若い男が現場監督に尋ねた。現場慣れしている充も寺内も、答えを知っていた。


「作業が終われば終了です」


 現場監督は簡潔に答え、別の場所へと移動してしまった。



「あの、何歳ですか?」


 寺内が質問をした男に尋ねた。


「19歳です」


 それを聞いて、寺内は「ほほう」と小さく頷いた。


「19ね。きみ、設営はじめてでしょ?設営のバイトって最後まで終わらないと残業もあるんだぜ」


 寺内は年下とわかると敬語を省略し、少し偉そうな口調になった。


「え、マジで?」


「マジだよ。あ、それと、俺は寺内。20歳ね。そこんところはハッキリさせとこう」


「すいません。自分は篠田です」


 と篠田が敬語に戻った。寺内の年上アピールに、彼は素直に対応したようだ。


「あと、こっちが岡崎さん。俺らよく設営してるんで、わかない事あれば何でも聞いてよ」


 充もよろしくと簡単に挨拶を交わした。充は、寺内がいなければ、こんな風にはならないだろうと思う。寺内の図々しさは時にありがたくも感じられた。


「残業の話って本当ですか?」


 篠田はどうやら時間を気にしているようだった。


「マジだよ。俺なんて最長で2時間半近く残されたことあるし。でも、今日は遅くはならないね。こんだけ人いれば予定通りに終わってる。なに、デートでもあるとか?」と寺内が笑いながら尋ねた。


 篠田は安堵の表情を浮かべつつ、違いますと顔の前で手を振った。


「居酒屋のバイトも掛け持ちしてるんですけど、予約の団体がいるからいつもより早く来てくれって昼頃に電話があったんですよ」


 居酒屋の話を聞いて、寺内の鼻の穴が少し広がるのが見えた。篠田の働き先に興味を示すかのように。


「篠田君、それは協力してやらんとな。俺たちベテランがいるから、早めに仕事を終わらせるように頑張ってやるよ」


「でも、遅くならないって言ってましたよね」


「いやね、それは俺ら次第って意味もあるのよ。つまり、俺らが頑張れば予定通り終わるし、そうでなければ残業になる。ところで篠田君。君の居酒屋はどこの居酒屋で働いているのかね?持ち場は?」


「え、自分は錦糸町駅近くのチェーン店でホールやってますけど」



 そこまで篠田が言うと、寺内は突然こんなことを聞いた。


「へえ、なるほどね。今日行ってもいいかな?」
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