藤崎くんの、『赤』が知りたい。
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「──じゃあこれな。横断幕の生地と、絵の具、あと筆だな」
「……」
放課後、職員室で鈴田先生から横断幕の道具一式を渡されながら、私はひたすらこの係を断ることばかりを考えていた。
あれだけ祈っていたのに、クジ引きで選ばれた七人の中に、私の名前が入っていた。
「(しかも、よりに寄って横断幕を作る係なんて……)」
「体育祭本番まであと三週間だからな。しっかり頼むぞ蓮見」
「あの、先生……。私、こういうの作れません」
ドサッと腕の中に詰め込まれた道具を持ちながら、鈴田先生に訴えた。
先生は私が『赤色』を認識することができない色覚異常だということを知っている。
だから絵を描くことが苦手なことも、ましてや全校生徒の目に触れる横断幕なんて作れるはずがないということだって分かっているはずなのに。
けれど、鈴田先生は大きくため息をついて、ゆっくりと私を見て言った。
「あのな、蓮見。いつまでもそうやって逃げるのはよくないぞ?」
「……逃げる?」
「せっかく選ばれたんだ。一回くらいチャレンジしてみたらどうだ?な?」
鈴田先生はそう言って、早く教室に戻るよう促した。
呆気に取られて、言葉も出てこなかった。
逃げるって、どういう意味?
一回くらいチャレンジしてみろって、それでもし失敗したら先生がどうにかしてくれるの?
「……っ」
心の中から、黒い渦を巻いた何かが悶々と溢れ出てくる。
鈴田先生は一度決めたことはなかなか覆さない先生だから、これ以上なにを言ってもきっと係を変えてくれることはない。
手渡された横断幕の生地を、ギュッと握りしめた。