藤崎くんの、『赤』が知りたい。
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「それでは最後に、成績発表を行います──」
体育祭のすべての競技が終わった。
夕焼け空の下で、これまでの努力の成果が発表されていく。
リレーに騎馬戦、応援団や部活対抗演目、障害物競走にムカデリレー。
紅組と白組に分かれて、その勝利の数が目の前に映し出される。
「そして最後に、横断幕の評価順位をお知らせします」
「……っ」
“この横断幕に、今から思いっきり赤で塗り潰そ!”
“もう下書きなんてどうでもいい、楓花ちゃんが持ってる赤色のイメージを全部ここにぶつけてみて!」”
“誰かの意見とか、体育祭の評価なんかどうだっていいから。楓花ちゃんの思うままに、書いてみて?”
あのとき藤崎くんが私にかけてくれたたくさんの大切な言葉たちが、ずっと頭の中でリピートされていく。
私だけの、大事な大事な宝物だ。
二人で作り上げた横断幕は、二年五組の休憩場所に堂々と掲げられている。
何度引き留めてもクラスのみんなに自慢しに行くと言って聞かなかった藤崎くんは、完成したばかりの横断幕を堂々とみんなに見せびらかした。
『す、すご……!』
『これ蓮見さんが書いたの!?すごくない!?』
みんなの反応が怖くてどうしても教室に入れなかった私は、その反応を見て泣いてしまった。
そして、玉澤くんたちはこっそりと私に謝罪してくれた。
「続いて、二学年の部。横断幕評価、第一位は──……」
横断幕の幅いっぱいに描かれた、炎の絵。
それは私がひと筆ずつ、叩きつけるように書いた赤色の塊。
こそに藤崎くんが『二年五組、優勝一択』という文字を添えてくれて完成したものだ。
どの学年よりもシンプルで、飾り気のない横断幕。
だけど、私は自慢の作品だった。
「二年五組の横断幕、題名「炎」が選ばれました」
校長先生の発表を聞いた瞬間、二年五組は全員大きな声で喜んだ。
「すごいよ!おめでとう蓮見さん!」
「一位ってやばくない!?」
「待って?もしかするとこの加点で……うちら白組の勝ちじゃない!?」
まさか、こんな日が来るなんて夢にも思わなかった。
赤が見えないことに囚われて、明るい未来なんて想像すらできなかったのに。
「──ハハッ!やったね、楓花ちゃん!」
「藤崎くん……っ!」
「わっ!」
これも全部、藤崎くんのおかげだ。
そう思うとなんだか感極まって、私は思わず藤崎くんに抱きついていた。
「ご、ごめん藤崎くん!また、赤くなっちゃうね」
「……うん、でも大丈夫」
「え?」
藤崎くんは、慌てて離れようとした私の体をギュッと抱きしめ返した。
「なっ!藤崎くん!?」
そして、私の耳元でこう言った。
「楓花ちゃん、あとで君に伝えたいことがある」
「へ!?」
「放課後、ちょっとだけ俺に時間くれない?」
それは、お互いの『赤』がうんと濃くなる……前触れだった。
【完】