嘘つきな彼  ~八年付き合った彼から『距離を置きたい』と言われました。これってフラれた?それとも冷却期間でしょうか?
「それだけでいいのか?遠慮してる?
笹塚の大食いはバレてるから恥ずかしがらずに食え。俺より食べてないだろ?」
「よく食べるのは認めますけど、昔でも尾瀬さんより食べてませんよ」

しっかりとご飯を食べたら、お酒を飲むことが許可された。
アルコールの御品書きを開いたら、日本酒の銘柄がたくさん書かれていたけれど、詳しくないので課長におすすめを聞いた。
甘口で飲みやすい温燗は、香り豊かで美味しい。
「おいしい!」
と言うと、課長は嬉しそうに、
「そうだろ、そうだろ」
と笑った。

結局、おいしいお酒でほろ酔いになった私は、尾瀬課長に聞かれるまま修との話をしてしまった。
きっと、私自身、誰かに聞いてほしかったんだと思う。
部下の恋愛話を聞かされて尾瀬課長もいい迷惑だろう。

「そういえば、新人の頃も恋愛相談されたよな。もしかして、あの時の彼氏さん?」
「はい」

「長いなあ、結婚とかって話にはなんなかったの?」
「大学生の時、付き合って欲しいっ言われた時に『結婚する気だから』って言われてて、いつかはするんだと思うんですけど」

「え?結婚を前提にお付き合いしてくださいってやつ?」
「そんなんじゃないですよ。
なんか予言っぽく『俺は綾音と結婚するつもりだから。多分結婚する。絶対する』って。
意味わかんないですよね」

「で、笹塚はそれを信じている・・・と?」
「……信じてるというか…するのかなって思ってはいるんですけど」

「付き合って8年だろ?」
「はい」

「その間にプロポーズとかあったのか?」
「プロポーズ…改めてはないですね。
一応、両親には私から付き合ってる人がいるとは伝えています。
挨拶とかはしてないですけど」

「‥‥‥そうか」
「なんか、もう、なあなあというか‥‥ズルズル付き合ってるっぽい気はしてるんです。
だから、結婚のこととか、否定されるのが恐くて、私からは聞けなかったんですよね」

「なあ、ちょっと込み入ったことを聞くけどさ。
笹塚はさ、この後そいつと連絡が取れたとするだろ。
そうしたら、どうしたいんだ?」
「どうしたい…ですか?」

「連絡が取れたら何を話し合うんだ?
半年間も一人暮らししてたことを内緒にされていたことも不問にするか、しないか。
浮気疑惑を追求するか、しないか。
結婚したいか、したくないか。
これまで通り何もなかったように付き合うか、付き合わないか。
笹塚はどうしたいんだ?」
「私は・・・」

どうしたいんだろう。
距離を置こうって言われて動揺してた。
話し合えば仲直りしてもう一度今まで通りに付き合って、ゆくゆくは結婚すると思っていた。

「本当にそいつが好きなのか?依存だったりしてないか?」
「え?依存?」

「そうだ。8年も一緒にいたんだ。
好きなものには愛着も沸くし、執着だってする。
愛情とよく似た感情だろうな」

愛着。
執着。
愛情とよく似た感情。

「連絡が取れた後の話だ。
笹塚はよりを戻すのか?それとも別れるのか?」
「‥‥‥ずっと一緒にいたから…いなくなるという選択肢が…」

「今までじゃない。これからだ」
「これから‥‥」

「そうだ。これからだ。
受け身になるな。
自分がどうしたいのか、どういう関係を築きたいのか、だ」
「はい。きちんと考えてみます」

「うん。そうしな」
ポンポンと頭を撫でられ、
「頑張れ。ここは、踏ん張ってちゃんと頑張れ」

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