嘘つきな彼  ~八年付き合った彼から『距離を置きたい』と言われました。これってフラれた?それとも冷却期間でしょうか?
   *****


土曜日。

カーテンを開けて、ベランダに出た。
空は薄い水色で、鳥たちがチュンチュンと囀っていた。
ベランダから見る休日の歩道は、いつもと違って人が少ない。
ジョギングをする青年や、犬の散歩をするご夫婦を眺めた後、室内に戻る。
前日に近所のコンビニでもらってきた段ボールを広げた。
そして、修が置いて行った荷物をその中に入れていった。

「えー。段ボール一つに入りきらないなんて。うう、もう一個もらってこなきゃ」

半日かかって片付けた8年分の修の荷物は段ボール3つになった。
たった5時間。たったの3個。

コンビニに1個ずつ持って行って、全て修の実家に送った。
重くて、指先がジンジンしたけれど、心はもう痛くなくなっていた。
ただ、心の真ん中にぽっかりと穴が開いた、そんな気がした。
寂しいのだなと思った。


シャワーを浴びながら、スーパーに行って空っぽになっている冷蔵庫に食材を補充しようと思った。

久しぶりにちゃんとご飯を作って食べよう。
スーパーで野菜やお肉を選びながら、午後の予定を考えた。
まずは好きなバンドの音楽を聴こう。
そしたら、コーヒーを淹れて、久しぶりに小説を読もう。
お気に入りの写真集を見るのもいいな。

月曜日になったら、お気に入りのスーツを着て会社へ行こう。
そうだ、早目に出勤して、デスクを拭こうかな。



ガチャ。
家に帰って、ドアを閉める。
靴を脱ぐ。


ガサササ。
靴を脱いだ拍子に、買い過ぎた荷物が音を立てて床に落ちた。

「あ~あ。ピーマンが出ちゃったよ」
そう言って袋からでてきたピーマンを拾った。


―――――――――ポタッ。

雫が床に落ちた。

――――ポタッ――――ポタッ――ポタ―――――。

溢れる涙が、次から次へと床に落ちていく。

「ふぅぅぅ・・・・ううぅ・・・・」



歯を食いしばる。
食いしばっても、流れてくる涙は止まってはくれない。




自分で別れると決めた。
後悔はしていない。
修をもう信じることはできないから。

だけど、修との楽しかった思い出が次々と溢れてきて、もういないのだと、手放したのだと思うと、寂しくて、寂しくて、寂しくて……。

修を愛おしいと思う。

8年もずっと一緒にいたのだ。
愛情がないわけがない。


でも。
もう終わり。

修自身が、私と距離を置くことを願ったから。
大切にされていないと感じてしまったから。
もう、修の愛を信じることはできないと思ったから。



修がずっと一緒にいたから……いないことが想像つかない。

けれど、修との未来ももう想像できない。


だから、別れていい。


辛くても、寂しくても、別れる。
もう、別れる。




さよなら、修。


立ち上がって、エコバックをキッチンのテーブルに置いた。

両手で涙を拭いた。




「修…。元気でね。さよなら」

想いを込めて、呟いた。



< 12 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop