嘘つきな彼  ~八年付き合った彼から『距離を置きたい』と言われました。これってフラれた?それとも冷却期間でしょうか?
2 甘い香りと修の嘘



「綾音?」


突然呼ばれた名前にを視線を上げた。

「修…」
修の驚きを隠せていない瞳と目があった。
そして、
「どうして綾音が?」
と尋ねながら、修は私の隣に座った。

「修のお母さんから電話があって…修と連絡がつかないって」
「そうだったんだ…。ごめん……寝てたから。それで、母さんは?父さんの具合とか分かる?」
視線を逸らす修に、
「さっき、意識が戻ったって、看護師さんが。
詳しいことは分からないけれど、今、お母さんが中でお医者さんから説明を受けてる」
と伝えた。

「そうか。この中?」
「うん」
扉を親指で指さした修は、立ち上がり、周囲を見渡した。
「すみません―――」
近くを通った看護師に声を掛け、修も中に入って行った。



「甘い…香り…‥‥」
立ち去った修から甘い香りがした。

病院の消毒液の匂いに、不自然な甘い香り。

目を閉じて、大きく息を吸いこんだ。

やっぱり……甘い香りがする。
そこには女性用のボディソープのような香りが残っていた。

ドン。
胸がざわついて……私は握りしめた右手で、心臓を小さく叩いた。



スマホに気が付かなかった理由が「寝てた」って?
いつも寝癖を直すのに苦労しているのに、今の修の髪はまっすぐだった。寝癖なんて皆無。
もちろん昼間のようなセットなんてしてなくて。まるでお風呂上りに髪を乾かした時みたいだった。

「寝てた」なんて絶対に嘘だわ。


そう思うと、次から次へと修の不審な点が浮かんでくる。


修は仕事に履いていく靴ではなく、スニーカーを履いていた。
出張に行く時の荷物は最小限で行きたがる修の服は思いっきり私服。
泊りで出張だと言ったくせに、すぐに駆け付けられる距離にいた。
何より、半年も前から一人暮らしって何?
何も聞いてないわ。


私の妄想が広がる。
修の浮気を想像して胸が疼く。


嘘ついてる!?




そんなことを考えていると、
「綾音さん」
と呼ばれた。

「あ、おかあさん」
お母さんと修が処置室から出てきていた。

「こんな遅くまで付き合わせてしまってごめんなさいね」
「い、いえ」

いけない!今はお父さんの方が大変なのに。修のことばかり考えてた。

「お父さん、骨折と打ち身はあるけど大丈夫ですって。失神したから念のため今日は入院して、明日精密検査することになったけれど。
綾音さん、心配かけてごめんなさいね。本当にありがとう。
私、修に連絡が付かなくて動転してしまって、急に連絡したのにいろいろありがとう」
「いえ。それより、お父さんが御無事で何よりです」

「ありがとう。修、もう遅いから送って行ってあげなさい」
「いえ、大丈夫です。タクシー拾いますから」

「ダメよ、修の大事な彼女さんですもの」
「本当に。修はお母さんについていてあげて」

「ほら、修!」
お母さんが修の背中を押した。

「分かったよ。綾音、送るよ」
「でも」
「母さん、言い出したら聞かないから、送られて」
「う、うん」

お辞儀をして、修と二人、駐車場へ向かった。
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