嘘つきな彼  ~八年付き合った彼から『距離を置きたい』と言われました。これってフラれた?それとも冷却期間でしょうか?
   *****


修の運転する車の中で、私の心はもやもやでいっぱいだった。

車に乗り込むと同時に香る甘い香り。
黙って座ったけれど、いつもより座席が後ろに下がってて、角度もほんの少し倒されていた。
今まで一度も飾られることのなかったバックミラーには小さな飾りがキラキラと揺れていた。
無言で椅子の角度と位置を直した。
けれど、私の苛立ちは治まることはなく、ふつふつと心臓が疼き続けていた。


「今日はありがとう」
「うん」

「いろいろ、ごめんね」
「何のこと?」

「母親が突然電話してきたこととか。病院にまで付き添ってくれたこととか」
「…それだけ?」

「‥‥‥」
黙ったままの修にイラっとして、
「一人暮らしを黙っていたこととか?」
と我慢でしずに意地悪な質問をした。

今はお父さんが大変な時だと分かっていたけれど、我慢できなかった。

眉をひそめた修に
「お母さんから修が一人暮らしをしてるって聞いたわ」
と告げると、修は、
「それは…驚かそうと思ってたんだ!引っ越したばかりで部屋がまだ散らかっているから、綾音には片付いたら言うつもりだったんだ」
と答えた。

嘘ッ!
半年前に引っ越したって聞いたわ!
半年も片付かないなんてありえないでしょ!

「修の家に行きたい」
「うん。今度呼ぶよ」

「今度っていつ?」
「うーーん。まだ段ボールとか残ってるから、片付いたら」

「手伝うよ」
「悪いからいいよ」

「でも引っ越して半年も立ってるんでしょ?半年たっても片付かないなら、手伝ったほうがよくないかな?あ、見られたら困るものとかある?もしかして、私以外の女の人の荷物とかあったりする?」

「自分で片付けたいだけだよ。あのさ、女の人の荷物とかさ、どうしてそんな嫌味っぽい言い方するわけ?俺が浮気してるとでも言いたいわけ?」

「してないって言うならちゃんと説明してよ!修からは甘い香りがプンプンしてるじゃない!助手席の椅子の角度だって変わってる!大体、泊りで出張って言っておきながら、どうして既読がついてすぐに来れるの!?一体、今までどこで誰と何してたのよ!!?」

はあはあはあ。
一気にまくしたて、肩で息をする。
だんだん大きくなって行く声が車内に響いていた。

「はあ」
修は苛立たしげに溜息をつい。
そして側道に車を止め、冷たい視線を私に向けた。

「浮気してないことの証明なんてどうやってするんだよ。
そもそも、今、このタイミングで聞くってありえないよね?それに親が入院した俺に送ってもらうってどうなのよ?普通、断るよね?空気読もうよ、28だよね? 新入社員でももう少し考えるんじゃない?」


お父さんのことで大変だって分かっていたはずなのに、私は怒りに我慢できなくて責め立ててしまった。


「・・・浮気してるって疑われる俺の気持ちわかる?もう少し彼氏のこと信じてくれてもいいんじゃない?」

「ごめん…」
「別れたいの?」
「違……」
「俺のこと信じられないんだよね?これって、一緒にいる意味ある?」
「ごめんなさい」
「はあ―――。別に謝って欲しいわけじゃないから」

再び溜息をついた修は、再び車を発進させた。

最悪だ…。




そこからは、互いに何も話さず、重い空気だけが車内に流れていた。




  *****

朝になって、修からメールが届いた。




『距離を置きたい』


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