嘘つきな彼 ~八年付き合った彼から『距離を置きたい』と言われました。これってフラれた?それとも冷却期間でしょうか?
大人しく課長の後ろをついていくとミーティングルームに連れて行かれた。
ドアに近い方の椅子を引き、私に座らせた。
「ちょっと待ってろ」
そう言って、私一人を残して課長は出て行った。
尾瀬課長は、私が新人時代の教育係だった先輩だ。
新人の頃にもしなかったような凡ミスをしてしまった。
もう、ヤダ。
それに皆にも迷惑をかけてるし…。
涙が滲んできて、慌ててハンカチで目を抑えた。
「ううう」
誰もいないミーティングルームで声を殺して泣いてしまった。
最悪だ!職場で泣いてしまうなんて。
まるで心配して欲しいと言っているようじゃないか。
泣けば済むと思うなって自分自身が一番感じているのに涙は止まりそうもない。
随分とたって涙が止まった頃、ドアがノックされた。
ドアが開き、尾瀬課長が入って来た。
課長は私の前に紙コップを置き、角を挟んで一人分のスペースを開けて椅子に座った。
「カフェオレでよかったよな?熱いから気を付けて飲めよ」
そう言って課長も紙コップに口をつけた。
「ありがとうございます」
そう言ってそっと飲んだカフェオレは冷めていた。
「あれ?意外と熱くなかったな」
と課長は困った顔をした。
きっと私が泣いてることに気付いて、泣き止むまで入室してくるのを待っていてくれたのだろう。
「甘くて、おいしいです」
と言うと、課長は柔らかく微笑んだ。
2人でただ黙って紙コップのコーヒーをゆっくり飲んだ。
心地の良い静けさとカフェオレの甘さが疲れた心と体に染み込んでいく。
そんな気がした。
課長は静かに口を開いた。
「笹塚、お前ここの所、元気もないし顔色もよくないぞ」
確かに目の下には厚塗りしたコンシーラーで隠した隈があった。
化粧ノリが悪い肌に、チークで血色をごまかしていた。
「ちゃんと寝てるか?」
う‥‥眠れていません…。
「食事はちゃんと食べているのか?」
うう‥‥腕時計の穴、一つ分痩せました。
正直にも言えず、嘘も吐けず、返事が出来ずに俯いてしまった。
注意されると思っていた課長からこんな風に心配されると思ってなかった。
でも、尾瀬課長の声は昔と変わらず優しかった。
新人の時から。私の指導係でまだ『尾瀬さん』と呼んでいる頃と変わらず、優しいのよね。
普段厳しいくせに、弱ってる時とか困ってる時とかすぐ気が付くし、優しいし、頼りになるし…。
そう思うと、止まっていた涙が再び零れてしまった。
「あ! すみません!」
慌ててハンカチで目元を拭いた。
「大丈夫だよ、謝らなくて。
俺は笹塚がめったなことでは泣かないことも知ってる。
負けず嫌いで仕事に実直で、いつも丁寧に確認することとかちゃんと知ってる。
そんな笹塚がミスを連発するなんて異常事態なわけよ。相ー当ー、無理してるんだろう?何があった?」
「‥‥‥すみません。いろいろあって‥‥」
「その『いろいろ』ってヤツは、俺が聞いてもいいヤツか?」
「‥‥‥完全にプライベートです」
「そうかー。それなら言い難いよなー。誰か相談できる人とかいるか?」
こんなこと誰に言えばいいの?妊娠中の友人と結婚が決まったばかりの友人の顔が浮かび、首を振った。
「俺でよかったら聞くから。プライベートだろうが何だろうが、気にせずいつでも連絡してこい」
「ううううううう」
そんなに優しくされたら泣いちゃうよぉおおお。
「お゛~ぜ~ざ~ん゛~」
ボロボロと堰を切ったように涙が溢れる。
「泣くな!」
「泣゛いでいいっで言っだぁ~」
「ああ!もう、泣いていいから!まずはちゃんと食って、ちゃんと寝ろ!」
「あ゛い」
尾瀬課長は手を伸ばし、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
「ありがとうございます」
課長に安心してもらえるように、微笑んで見せた。
課長はちょっと眉をしかめ、
「造り笑いばっかりうまくなってんじゃねーぞ」
と言った課長は、今度は優しくポンポンと頭を撫でた。
「よし!笹塚、久しぶりに飯、食いに行かないか?」
「・・・ご飯、ですか?」
「うまいもん食わせてやるぞ。今晩、あいてるか?」
ドアに近い方の椅子を引き、私に座らせた。
「ちょっと待ってろ」
そう言って、私一人を残して課長は出て行った。
尾瀬課長は、私が新人時代の教育係だった先輩だ。
新人の頃にもしなかったような凡ミスをしてしまった。
もう、ヤダ。
それに皆にも迷惑をかけてるし…。
涙が滲んできて、慌ててハンカチで目を抑えた。
「ううう」
誰もいないミーティングルームで声を殺して泣いてしまった。
最悪だ!職場で泣いてしまうなんて。
まるで心配して欲しいと言っているようじゃないか。
泣けば済むと思うなって自分自身が一番感じているのに涙は止まりそうもない。
随分とたって涙が止まった頃、ドアがノックされた。
ドアが開き、尾瀬課長が入って来た。
課長は私の前に紙コップを置き、角を挟んで一人分のスペースを開けて椅子に座った。
「カフェオレでよかったよな?熱いから気を付けて飲めよ」
そう言って課長も紙コップに口をつけた。
「ありがとうございます」
そう言ってそっと飲んだカフェオレは冷めていた。
「あれ?意外と熱くなかったな」
と課長は困った顔をした。
きっと私が泣いてることに気付いて、泣き止むまで入室してくるのを待っていてくれたのだろう。
「甘くて、おいしいです」
と言うと、課長は柔らかく微笑んだ。
2人でただ黙って紙コップのコーヒーをゆっくり飲んだ。
心地の良い静けさとカフェオレの甘さが疲れた心と体に染み込んでいく。
そんな気がした。
課長は静かに口を開いた。
「笹塚、お前ここの所、元気もないし顔色もよくないぞ」
確かに目の下には厚塗りしたコンシーラーで隠した隈があった。
化粧ノリが悪い肌に、チークで血色をごまかしていた。
「ちゃんと寝てるか?」
う‥‥眠れていません…。
「食事はちゃんと食べているのか?」
うう‥‥腕時計の穴、一つ分痩せました。
正直にも言えず、嘘も吐けず、返事が出来ずに俯いてしまった。
注意されると思っていた課長からこんな風に心配されると思ってなかった。
でも、尾瀬課長の声は昔と変わらず優しかった。
新人の時から。私の指導係でまだ『尾瀬さん』と呼んでいる頃と変わらず、優しいのよね。
普段厳しいくせに、弱ってる時とか困ってる時とかすぐ気が付くし、優しいし、頼りになるし…。
そう思うと、止まっていた涙が再び零れてしまった。
「あ! すみません!」
慌ててハンカチで目元を拭いた。
「大丈夫だよ、謝らなくて。
俺は笹塚がめったなことでは泣かないことも知ってる。
負けず嫌いで仕事に実直で、いつも丁寧に確認することとかちゃんと知ってる。
そんな笹塚がミスを連発するなんて異常事態なわけよ。相ー当ー、無理してるんだろう?何があった?」
「‥‥‥すみません。いろいろあって‥‥」
「その『いろいろ』ってヤツは、俺が聞いてもいいヤツか?」
「‥‥‥完全にプライベートです」
「そうかー。それなら言い難いよなー。誰か相談できる人とかいるか?」
こんなこと誰に言えばいいの?妊娠中の友人と結婚が決まったばかりの友人の顔が浮かび、首を振った。
「俺でよかったら聞くから。プライベートだろうが何だろうが、気にせずいつでも連絡してこい」
「ううううううう」
そんなに優しくされたら泣いちゃうよぉおおお。
「お゛~ぜ~ざ~ん゛~」
ボロボロと堰を切ったように涙が溢れる。
「泣くな!」
「泣゛いでいいっで言っだぁ~」
「ああ!もう、泣いていいから!まずはちゃんと食って、ちゃんと寝ろ!」
「あ゛い」
尾瀬課長は手を伸ばし、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
「ありがとうございます」
課長に安心してもらえるように、微笑んで見せた。
課長はちょっと眉をしかめ、
「造り笑いばっかりうまくなってんじゃねーぞ」
と言った課長は、今度は優しくポンポンと頭を撫でた。
「よし!笹塚、久しぶりに飯、食いに行かないか?」
「・・・ご飯、ですか?」
「うまいもん食わせてやるぞ。今晩、あいてるか?」