陽之木くんは、いつもそうだ。
最期の日
「これあげる」
生徒の誰も来たがらない、屋根なし吹きさらしの二階の渡り廊下。
陽之木くんは柵を背に座り込んで、わざわざコンビニを三軒はしごして買ったという新商品のお菓子をひと口、ふた口だけ食べてすぐ、対面の柵側に座る私に寄越した。
ちなみに陽之木くんの言う『これあげる』は、全部あげる、の意味だ。
私はまたか、とわずかに眉間の皺を深くする。
「もう食べないの?」
「うん」
「……食べないのになんで買ったの」
358円。 決して安いとは言えない、探し求めてようやく手にしたはずのお菓子をたった二口で手放すなんて。 理解できない。
「ふた口だけ食べたかった」
陽之木くんは、いつもそうだ。
頭上にある高い青い三月の空も顔負けの爽やかな笑顔に、テキトーなセリフを乗せて返す。
それ以上なにか言うこともできなくて、陽之木くんからポップな字体で『ぐみチョコ』と書かれたお菓子の箱を受け取った。
ちなみに陽之木くんは先週発売された『まるでバター饅頭』のときも同じことをした。
お金を払うと言ってもいらない、と一蹴されて、絶対に受け取ろうとしない。 手に入れるまでの過程に価値があるらしい。
それにしても二口358円、プラス店間の決して短くはない距離を自転車で移動する労力を考えると、コスパが悪すぎる。
やっぱりもう少し食べなよと言おうとしたとき、冷たい風が勢いよく私たちの間を抜けていった。 反射的に体を小さく縮こめる。
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