陽之木くんは、いつもそうだ。
「はい!」

 緊張が走る体育館の中で元気よく返事をしたのは、バスケ部部長の吉村くんだった。 どうやら陽之木くんの代理で受け取るようだ。
 壇上で証書を受け取ると拍手が沸き起こり、吉村くんが涙ぐみながら壇上から降りるのが見えた。
 みんなが拍手して、体育館は感動の渦に包まれる。

 気持ち悪い、と思った。

 なぜかはわからなかった。 何百人もの人がいるこの体育館の中でもきっと、こんな風に『気持ち悪い』と感じているのは私だけだ。
 みんなみんな陽之木くんを可哀想に思って、こんな形だけど一緒に卒業できたんだね、と心から感動して涙を流しているのだろう。
 お腹の底の方から自分の中の汚いなにかが迫り上がってくるような気持ち悪さで、手のひらや額に汗が滲んだ。
 鳴りやまない拍手の中、私はドクドクと早鐘を打つ胸をおさえるのに精一杯で、ゆっくりと震える息を吐き、自分自身を落ち着かせる。
 今の自分の気持ちを一つだけ明言するなら、消えてしまいたい、という思いだった。 死にたい、とは違う。 ただ、消えてしまいたい。 それだけだった。
 
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